夏障子を求めて1・・・修繕も

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【相談】

夏障子を京都で新調したいのですがどうしたらいいですか?

京都本場の簾戸を勉強して、できたら材料を調達して帰りたいのですが、アドバイスお願いします。(夏障子=簾戸【すど】、葦戸【よしど】)

160223簾戸

【答え】

簾戸といえば建具屋さんがつくる木製の骨組み(框と桟)と葦や竹ひご(萩や蒲【がま】も使う)を糸で織った簾【すだれ】でできています。

骨組みは多少の地域性があってもどこでもできますが、簾はやはり本場琵琶湖の葦【よし】を使って織られた(機【はた】で織る)近江か京都のものがおすすめといえるでしょう(大阪もいいですが今は需要が京都に集中)。近江では自然の葦を選別して使うのですが、よりよい簾材料とするため質のいいものを管理して育てています。

葦の品質は、

水質や気象に大きく左右される他、よりまっすぐでつやのあるものになるよう日頃から手間暇をかけています。葦を刈る時期や保存の仕方、また葦の皮をはいで選別していく過程でも品質管理における伝統技術、「眼」が必要となります。気象条件が整った年にきちんと手を掛け、よい保存状態で寝かしておいた上、葦の皮をはぎ、初めていい簾になる材料が得られます。ちなみに水質も葦の出来を大きく左右し、肥沃な水質では葦がかえって育ちすぎる(緻密でないものになる)そうで、北山杉などの木育てと共通するように思います(北斜面で肥沃でなく長年掛けて年輪が詰まったものがいい北山杉になる)。

次に刈り取って寝かしておいた葦は、細いものから太いもの、節間のそろったもの、元末(根本と梢先の管の直径)の差の少ない部分を好みに合わせて選別しなければなりません。細いもので作った簾戸ほど部屋内は明るくなりますし、太いと暗くなります。また節間や色味が全体にわたり揃うことでスカッとした意匠の簾戸ができあがります。

わざと太いもの細いものを特別な意匠に仕立てた簾戸(立ち姿)もありますが、一般的には「太い細い」の上下をテレコ(互い違い)にして、節を簾戸全体に散らせる京式(バラ)が京都の町家では好まれます。ほかには横桟に葦の節を隠し(節抜き)、節間の葦の色の濃淡(皮で覆われた白身の部分と日にさらされた赤身の部分)をほぼ水平にそろえることで簾戸全体に何筋かの横縞模様をもたせた「縞合わせ」(五つ縞、六つ縞)の手法が粋筋(置き屋や料亭、大坂町家)には好まれるそうです。

京都好みのスカッとした簾戸に

京都好みのスカッとした簾戸にするためには、より涼やかにみせるためにも框や桟はしっかり良材(吉野や秋田の杉の赤身*)で細身に仕立てることが大事ですが、葦戸の難しいのはここからです。*地域によっては桧も使いますが、どうも油っぽく暑苦しくなります(元々の建物に使われている木材との相性も考えましょう)。部屋全体の意匠をみながら材料・寸法(框の巾、柾目・杢目など)を選んでください。

よい葦を巧みに選別して、重めの錘を掛けてかちっと織機にかける(織糸の張り具合)、また錘に耐えるしっかりした葦を使うことが要です。簾戸になってから建具の動きや季節の入れ替えで挟んだ葦簾がごそごそ動いたり、誤って手指を突き刺したりと傷みやすい建具でもあるので、最初の「造り」の善し悪しはすぐ結果にあらわれます。

夏障子

またどうしても訪れる修理の折に「押さえ縁」をはずして簾をはずし、傷んだ葦を差し替えて(織り込んで)また戻すといったことをできる体制(出入り業者との信頼関係)や「みせ選び」が昔は当たり前でした。遠方から京都に頼んでできた簾戸もまた必ずその修理のときのことを考えて作っていただかないとせっかくの簾戸も長年使い続けられません。

細身の骨組みに、しっかり織られた簾、しかも細い桟割にしっかり織り糸目を合わせた簾ですが、「建具の面材」としてはとても弱いものといえます。襖仕立ての敷鴨居の溝に見込み(奥行)の小さな木組みにストローのような素材を組み込むのですが、建具に反りを出さないようにするために框のホゾ組にはいい仕事を施す必要がありますし、骨組みの木材も目の通った質の高い木材が必要です。

また少ない見込みに直径1.3分~2分ほどの葦をはさみ押さえる涼感ある煤竹(胡麻竹や杉)が建具に悪さを仕掛けるのです。いい煤竹ほど強く粘りがありますので、細釘を打っただけではその反りで釘がすぐ抜け出てしまうのです。結果、建具の召し合わせで反った竹や釘が引き違う相手建具を傷つけてしまうのです。

年間6-9月に登場する入替え建具ですので、しまっている間にも材料と材料の間の反り変形で、「殺し合い」が発生していますので、夏に座敷に出したときにはよく点検してから建て込むようにしなくてはなりません。

襖と障子の張替え 単行本 – 1991/10広岡 靖三 (著)


建具師や表具師に頼むのではなく自分で襖張り、障子張りをしたい人のため、少し専門的につっこんで解説しているレア書。

夏障子の修繕(簾戸)

220923旧木下家住宅の簾戸_修理の方法_磨き葦の差替え

旧木下家住宅*の簾戸の場合、磨き葦の差替えを行い修理しています。押さえ桟を外して傷んだ部分だけ取り替えています(白く見えている六本の磨きよし)。本来は押さえ桟の2コマ分の長さですが、半サイズで最小限の取替えにして、かつ色味も着色せずに、そのままにみせています。(*神戸市東舞子町2ある昭和16年築の国の登録有形文化財、近代和風)

繕いつつ、またその繕い痕も景色になっていくことでしょう。

10月を前に朝夕涼しくなってきたら、夏の間に傷んだ部分がないか点検し、乾いた雑巾で清めて蔵にしまいます。修理はこの際に。

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