学生下宿の再生

180606下宿屋の小屋裏

相談

昭和ひとけたの時代、関西の名門大学向けの学生下宿として建設された兼用住宅です。先々代が建て、多くの下宿人ともどもここで育った所有者にとって、昭和初期の学生下宿という特殊な建物を、できれば壊さずに維持していきたいと考え、私の甥が積極的に相談にのってくれています。老朽化は自明なので、耐震改修や修繕方法をまず、そして、今後この建物のよさをいかした活用をアドバイス願いたいです。

答え

戦災や’95震災を経て、また周辺状況が一変する中、旧情をよく残しています。レンガ基礎であるためも原因か、床の沈み、建物の傾きも全体的にみられますが、玄関や階段室などいたるところに昔の学生下宿の面影を残しています。何より、現在までも継続して住宅兼下宿として存在し、快適でアットホームな雰囲気を今も保っていることは、地域の歴史を物語る道しるべとして貴重であると感じました。下宿屋として小割の部屋割りプランを持つやや大規模な木造建築で、ほぼ総二階寄棟の目板打ち縦板張りの和洋折衷の意匠といえる建物、小屋は和組でした。

地域の状況は、阪急電鉄沿線の郊外型住宅地かつ大型教育施設が大正~昭和初期にかけて開発された「文教地区」です。ヴォーリズ設計のキャンパス様式、スパニッシュ・ミッション・スタイルがこのあたりの景観を誘引し、同様な建築が多い中、’95震災後も伝統的な日本建築も残っている旧集落に位置します。緩やかな丘陵地で緑も多くそれらを背景に伝統的な和洋の建築群が一体となって景観を形成している阪神間における近代を代表する地域といえるでしょう。

建物は比較的良好な状況ですが、床の傾斜や外壁面の劣化などが見られ、耐震対策を含め、今後の活用に際し、計画的に修繕をすべきであると考えます。

活用に関しては、用途地域的に、また接道問題があれば、建築基準法上の「用途変更」(他の特殊建築物への転用)が難しいため、活用用途は限られるかもしれません。

が、あたりは山手の良好な住宅地に立地し、駅近で学生の多い地域、しかも参拝者の行き交う某寺の門前とあって、活用案の広がりは期待できると思います。下宿業の許可を利用した、新しい下宿・寄宿舎を考えるのも一案でありましょう。

何より、うまく工事費を回収できる長期的な活用策の第一歩として、立地を生かしてここに「新たな魅力」を加えることのできる事業者探しも念頭に、もしかしたら段階的になるかもしれませんが、所有者らの再生への熱意を具体化できるお手伝いができたらうれしく思います。

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