登録をゴールにせずに 解体か売却か

210807大和保田の家

これまで、私もひとつの目標に「登録文化財」をあげてきた経緯があります。が、十分な情報共有がないままに「ゴール」を迎えると、そこで「おめでとう」と交わした後、思考停止になってしまいがちであったことに気付きました。価値の評価(価値付け)は保全のモチベーションにとって大事なことはあきらなかのですが・・・。

1996年登録制度ができてはや30年、どんどん登録当時の所有者が代替わり中、「登録文化財の現実」に出会って困惑しています。登録文化財をテコに新しい感覚の展開を見せるものもあれば、もう登録を辞退したいと考える所有者もおられます。

登録文化財になったことを名誉に思われないかたはおられません。家の歴史が建造物とともに国に登録されたことは事実でありましょうから。でも、儚い支えの「登録文化財制度」に頼っていても何もはじまりません。

登録文化財を「売る」という選択をとる方も増加中。>>登録文化財売ります(関連記事)

「登録文化財売却」の実際はこれから急増することでしょう。これまで登録文化財だけでなく重要文化財でも除却(滅失)の事実は何度も報じられていましたが、正直他人事でありました。「登録文化財売却」と「登録文化財解体」にもう目を背けてはおられません。

登録文化財の滅失届
滅失届(滅失の原因とその後の措置を記入して文化庁に届ける必要があります)

佐滝 剛弘/著『登録有形文化財』>>

空き家が全住宅4軒に1軒になる時代に「伝統的な歴史的建造物」がその多くが活用しにくい建築規制地域に建ち、その姿を保全するのに法外な費用がかかることは事実です。住宅性能としての耐震や温熱環境(寒い、暗い、危ない)を考えてもとても持続可能な建物とはいえません。

文化財的価値と活用価値は違います。活用のために所有状況を変えたり、大きな手を加えたりしつつ(改修)、登録文化財であり続ける方策を考えねばなりません。

行政に頼るより民間力でと言われますが、そこにもいろんなハードルがあります。直截な視線で現実に目を背けず前に、もう少し前に進みたいと思います。

210807大和田原本の家

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基礎から応用までしっかりわかる 都市計画法の教科書 – 2025/5/11
原田 保夫 (著)

用途地域問題をはじめ、市街化調整区域に建つ登録文化財の活用に都市計画法は建築基準法に並ぶ大きな障壁になります。住宅専用地域ので民泊や宿泊施設はNGが基本ですし、第一種住居専用地域では飲食・物販が規制されます。ただそこにあるだけで貴重な文化財ですが、自分自身の存続をまかなえる糧が必要です。事業活用へのオペレーション技術は向上していますが、法規のハードルは高い。特区や特別な許可でこうしたハードルをクリアしていかなければなりません。