一般診断(簡易~詳細までいろいろ)
「壁の強さkN」と「壁配置(四分割法や偏心率)」などから簡易にしかも安全側に診断できる診断法で、壁がよほど多くないと、ほとんどの伝統構法では「倒壊する可能性が高い」(評点0.7以下)との診断がでます。在来軸組構法(現在多くを占める木造)においては、この診断を基に補強診断することは有効です。
いっぽう伝統構法にこの診断を採用して、評点をあげるためだけの耐震補強を計画すると、本来の伝統構法の間取りやデザイン、使い勝手上のよさを損ないがちです。(最も簡易な保有耐力診断で2階建を診断する場合は、総二階を基準とする仕様となっています。診断条件や精密さを確認してください。)
評点を上げるために、「足固め」を設置することで、建物のメンテナンス性を妨げてしまうことも多いようです(床下作業がしにくくなる)。また、かなり安全率が高い診断なので、いたずらに耐震補強時に利用すると、単なる数字合わせで壁耐力を増加してしまうので、ときに地震力の伝達が破綻して倒壊することも考えられます。
外周部(外壁)では梁まで土壁が達しているが、内壁(間仕切り壁)ではこのように、天井までしか土壁が塗られていない(上部の横架材に土壁が達しない)ケースが多い。中には外周部でさえ土壁が梁に達していないケースもありました。また土壁の厚さが「裏返し」(竹小舞が両面から覆われている状態に)されてないなど、一見しての判断と食い違うこともあるので注意が必要です。
もちろんメリットも多く、「壁強度」重視型の建物(構造用合板を主力にした建物)であれば、この一般診断が何より簡便ですし、小規模ですと10万円ぐらいで調査・診断~補強計画が可能です。
また、整形(単純な形)で、開口部を減らす改修であるなど、かなりの強度アップが期待できる場合は、この診断で安全性を確認することがコスト面でも正解かもしれません。
※総二階でない建物の場合、荷重を実態に照らして計算できる精算法を利用しましょう(精算と精密は違います)。
精密診断法1・保有耐力計算法
一般診断の精密バージョンです。柱、梁、垂れ壁・腰壁をすべてチェック(診断に算入)できるように、往々にして破壊検査(壁や天井・床などの表面をはがすこと)も必要になります。また、よってかなりの調査費用が想像されますが、一般診断がどんぶり勘定なのに対してかなり実態に即した結果が出て、場合によってはあとの補強が少なくて済む場合もありますので、補強のための工事費が抑えられるというメリットがあります。
また耐力壁の配置や水平構面も考慮してバランスを検証できますので、限界体力計算(平屋モデルの場合)より現実的な補強設計になるように思います。
精密診断法2・限界耐力計算法
伝統木造の特性も読み込んだ「ねばり強さ」を診る診断法ですので、難解ながら、きちんと理論を理解した上で行うと実情に即した結果が得られます。精密な調査が必要なのは上記と同じです。また力の伝達など伝統構法への十分な理解がないと間違った解析をもたらします。
限界耐力計算法の歴史
2000年の建基法改正により伝統的構法の木造建築物を合法的に設計NG→性能型設計法のひとつとして限界耐力計算法が同時にOKに→『伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル』2004発刊→耐震偽装事件後2007年の建基法改正で「限界耐力計算法」は「構造計算適合性判定」対象になり実質的に住宅レベルでは難しくなる→四号ものではクリアか?→伝統的構法木造建築物設計マニュアル編集委員会がNEWマニュアルで精度アップ>>
限界耐力計算の注意点
- 精密な力の伝達を調査する中で、どうしても材種や仕口・継ぎ手の見えない組部分などわからない場合も当然でてきます。よって、その分の精度は落ちることがありえます。(全体から言うと些少な誤差といえますが、ときとして重大な差をもたらすことがあります)
- 同じ工法・構法、職人技の巧拙や考え方の違いもあり、規定値通りの強度を期待できるかどうかに不確かさが残ります。
- 壁土などは同じ地元産の土でも成分の差やスサの種類、寝かし期間の差で強度に違いがでます。ちり際の処理、裏返しの有無、土の付着力を増すための貫への刻み込みの有無も壁強度に差をもたらします。漆喰壁とジュラク仕上げの壁、荒壁のままなど一概に強度が同じといえない場合もあります。過去の震災や水害での劣化や割れ・隙の有無も同様です。
- 個人的な伝統建築へのうんちくは時として大きな誤解があるときがあります。・・・法隆寺は何百年保ったから丈夫だ!とかいった類です。
- 伝統建築の3.5寸以下の部材での仕口・継ぎ手は強度がないと考えて下さい。
- XとY軸それぞれの壁量・力の総和ですので、壁の配置が関係ない計算(平屋モデルなど簡易な計算の場合)です。が、水平構面の確かさは確認が必要です。(これが難しい)
- 階高が高い方が揺れ方の関係で有利になりますということですが・・・。
- 垂れ壁や腰壁などの小壁も有効な耐震要素ですが、柱が折損しないかの確認が必要です。
- 石場建て(玉石建て)では、礎石から柱が落下しないようにすることが条件(震度6強では大丈夫だが7では落ちるかも)(2019)
- 偏心率は0.15以下にすること(剛床仮定成立のため)・・・ねじれ倒れを防ぐ(2019)
- あいにく補強工法・材料少ない、また既存の耐震要素の強度判断がまだ不十分(実験の積み重ね)・・・計算には安全率を見込み、不確かなものを不確かなまま当て込まない(2019)
限界耐力計算法 耐震性能の目標は、
まれに発生するとされる【震度5】程度では【損傷しない】こと (建物がその後も使えること)
=最大応答変形角(柱の傾き)1/200~1/120までOK・・・1/90が安全(2019)
極めてまれな【震度6強】でも【倒壊しない】こと (建物が凶器にならないこと)
=最大応答変形角(柱の傾き)1/30~1/15までOK・・・1/20が安全(2019)
です。('95年の阪神淡路大震災では阪神間及び淡路島の一部において震度7でした。建築基準法の「耐震基準」の目標は【震度6強】で全壊しないこと。)
限界耐力計算法 その他の検討事項
- 礎石(玉石)と柱脚とで十分摩擦効果があり、かつ動いたときにころげおちないこと。礎石の柱と接する面の広さが十分必要で、ないときは面を補う補強が必要です。
- 各柱脚がばらばらに動かないように足固め(根絡み)を備えること。
- 地盤の液状化の有無を確認すること。
- 軸部の損傷の程度を把握すること。・・・実はこれが一番難しい。樹種すら判明しないこともある。
- 通し柱の屈曲限界を見極めること。
- 小壁の取付く柱が揺れで小壁に押されて損壊しないことを検証すること。
- 縦に細長い建物の場合は「転倒」の危険性を考慮すること。
- 偏心によるねじれの検証。・・・実はこれも難しい。
- 傾きによる隣家との衝突の危険を見極めること。
※調査費用もかかりますし、結果的に診断料がやや高額なになりますが、建物のよさをできるだけ尊重して耐震改修したいときにはご検討下さい。また簡易な診断法で工事費用がかさむよりは、診断費用にコストをかけた方が結果低いコストで済むことも多いのでぜひご検討下さい。
精密診断法・限界耐力計算法「平屋モデル」とは
特定の条件下で、2階建ての建物を平屋建てに置き換えて計算するため、また十分な安全率を見ることで、簡易な計算で診断できる方法で、大阪市や京都市では町家を中心とした伝統構法の建物の診断法として公式にOKし、平屋モデルでの診断や耐震改修を補助対象にしています。
敷地調査・地盤種別(Gs)
↓
平面図・軸組図
重量(mg)、構造階高(H)
耐震要素の設定(部材寸法、柱径・材、垂壁・腰壁H、土壁厚)
↓
各階の耐震要素の復元力特性(力と変形)算出
軸組の復元力特性(階別・方向別)から
建物の復元力特性(Q・R・h)
↓
平屋条件OK(2階の大きさ次第・・・2階が先に壊れないこと)
↓
簡易法による応答計算(地震時の最大応答変形角)
-----応答計算シート利用-----
↓
判定
注意1 関西と関東の違い
柱脚と玉石の摩擦係数は関西と関東で見解が違います。関西では0.6、関東では0.4。いずれにせよ、建物がすべることを前提にしたときには、上記の診断は成立しません。つまり、限界耐力計算は柱脚が玉石に乗って動かないことを前提にした計算です。110122
注意2 下屋はセパレート
伝統建築にありがちな、本屋の四周につく下屋は往々にして本屋と剛性を持って接続されていません。土壁の繋ぎはあっても梁や繋ぎがなく、垂木でしか繋がっていないことが多いのです。そうした場合、いくら下屋に耐力要素があっても、建物全体の耐力に加えることができないので注意が必要です。下屋の機能を考えると、下屋の取付く本屋面にはほとんど壁(耐力要素)がないのが普通ですので、このことが、伝統建築の耐震性を大きく下げていることがいえます。面積的にも、ゾーニングしてそれぞれのゾーンで耐力計算が必要です。逆に、補強時には下屋の平面剛性を確保することで、下屋と本屋は一体となり、下屋の耐力要素を算入できますので、大きな補強要素になります。110122
保有耐力計算法と限界耐力計算法の違い
保有耐力計算は建物に加える地震力を決めた上で、それへの保有耐力を部材の耐力と性能で見極める計算法。いっぽう、限界耐力計算では地震力の大きさを求めてそれに対して保つか、またどんな傾きに耐えるかを求めます。よって傾きごとにその状態が判明しますので、建物の特性「堅いか、柔らかいか」が大事な要因となります。
※注意:建物の特性を客観的に調査・評価することでおおむねの方向が見いだせます。厳密に安全性を求める場合は、費用対効果をきちんと把握した上で構造の専門家に相談すべきです。