Q&A 阪神間寺院庫裡の耐震改修

110514寺の庫裏の小屋裏 耐震補強

2024.1.08金沢工業大須田達教授・金沢大村田晶助教の言葉から

能登半島地震、珠洲市で木造寺院壊滅的被害の理由
一つは、地震波の特徴で「珠洲市は、建物に大きな影響を与える地震波の波形が出ている」(須田)
1月1日の地震渡を解析した結果、木造家屋などの中低層の建物が倒懐しやすい周期l~2秒の強い揺れが各地で観測された。
この周期の揺れは、阪神・淡路大震災(l995年)や熊本地震(2016年)でも観測され、多くの家屋が倒壊した。
さらに、現地調査した近くの観測点では、周期3秒の強い揺れも起きていた。建物をゆっくりと大きく揺らす周期。
現地で確認できた六つの神社や寺は、軒並み「全壊」。
「神社や寺などの木造の建物は、屋根が比較的重いため、3秒程度の長周期で揺れやすい。建物が共仮し、被害が大きくなったのではないか」(須田)
この周辺は元々地盤がやわらかく、周期3秒の揺れが出やすいとみられている。
一方、最大震度7の志賀町では、周期1~3秒の揺れは比較的小さかったという。
繰り返し大きく揺れると、柱と梁の接合部分や壁の強度が落ちてしまう」(村田)

2024.1.08朝日新聞

相談 築百年の大改修へ

阪神間にあるお寺の庫裏の改修を検討している工務店です。震災を挟んで長年増改築を続けてきた庫裡・客殿を耐震改修したいので相談に載ってください。まずは耐震診断をしたいと思っています。

重い土葺き瓦の鐘楼 やや内転びの四本脚 鐘も重いので下方の貫や梁が緩むなどしてバランスを崩すと捻転して壊れやすい。四隅から足下に基礎を施した鉄骨で補強した例。いいか、悪いか?

答え

航空写真を拝見したところ、庫裡を中心にいろんな棟が連結しているのがわかります。まずはこうした建物との関係や改修歴を整理しましょう。とくに大改修の前には建築基準法という建物や敷地内の安全性をどう確認するかが後々必要になってきますから。

用途市域や防火地域などの都市計画情報も重要で、それによってわずかな増築でも建築確認が必要になります。お寺だから、とか、いままでも適当に建築確認せずに増改築してきたから、とかいう時代ではありません。

まして近く訪れる地震で寺内や敷地外へも被害が起こったときに違法建築であったときの責任は重大な物になります。

建築コンプライアンス

都市計画法や建築基準法に照らして今までの増改築手続きに問題があれば、違法性を疑ってください。また適法化すべき点をわかった上で、建築確認の必要な工事が発生する可能性を知りましょう。

減築行為には建築確認は不要です。ある程度の「改修」では、建築確認は要りませんが、増築する場合が問題となります。建物に対する荷重負荷が増えるからです。

建物の耐震性以外にも、居室の安全性を建築基準法で確認する必要があるでしょう。採光や換気など人体へ安全性は何より大事ですから。

建物に適性のある耐震診断を選ぶ

さて、本題です。築百年ということですので、伝統構法の玉石建てでしょうから、当然限界耐力計算をとのご希望ですが、長年の増改築歴をうかがうと計算に載せるまでの調査に多く労力がいることが想像されます。

限界耐力計算には、建物全体に及ぶ構造伏図と軸組図が必要になります。通り芯毎に耐力要素の種類と性能と劣化具合を集積してどこまで保つか(傾くか)を計算するからです。

080624庫裡小屋裏の耐震調査(限界耐力計算)2

よって耐震性を確認するために「一般診断」を用いて簡易ではありますが、安全性をまず俯瞰してみることからはじめてみてはいかがでしょうか?

少なくとも耐力壁の配置バランスや量、建物重量に対する不足耐力が明確になりますので、増改築を進める目安がつかめます。

ただし、今もこれからも檀家の皆さんと大事にお使いになる建物ですので、安全判断がつかなかったときの情報共有と使い方について前もって共通認識をおかれることをおすすめします。

なぜなら簡易な診断で耐震性の不安が増すことでいろんな問題が噴出縷々事になります。特に阪神大震災を経験した阪神間には倒壊に対する過敏な反応が予想されますので、ことの進め方には慎重になっていただくにこしたことはありません。

110514寺の庫裏 客殿の床下 耐震補強

斜面地に建つ玉石建ての庫裡です。足下を見ると不安になりますね。でも昔の棟梁が心を込めて、腕を振るって建てた建物です。先の檀家の方々のお気持ちもこもっています。もしかしたら立て直すことで失う心の拠り所であるかも知れません。慎重に段階を経て皆様が納得のいく安全な工事になりますように祈っております。

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法隆寺や姫路城はじめ、日本には世界遺産に指定された歴史的建造物が多い。だが、役割を終えた古い建物でしかなかったそれらに価値や魅力が「発見」されたのは、実は近代以降のことである。保存や復元、再現にあたって問題となるのは、その建造物の「正しい」あり方である。歴史上何度も改築された法隆寺、コンクリート造りの名古屋城天守閣、東京駅、首里城……。明治時代から現代に至る美の発見のプロセスをたどる。

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寺社の装飾彫刻: 宮彫り―壮麗なる超絶技巧を訪ねて– 2012/1/13

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