
生まれ変わる歴史的建造物>>Amazon
-都市再生の中で価値ある建造物を継承する手法
街の歴史を伝え続ける歴史的建築物を、都市再生の中でいかに存続させるか―建築設計者は歴史継承と課題克服の相反する問いに、最適解を導きだしていかなければならない。本書は、そのための設計思想を紹介する。豊富な写真や図面とともに、手法だけでなく、著者が実際に携わった事例(日本工業倶楽部会館、三菱一号館、東京中央郵便局舎、歌舞伎座)を交えて紹介
登録文化財に襲う修理
登録文化財にするときは、ほどほど見やすい状態であったものの、あれから10年。あちこちに修理が必要になってきます。
また実際に住んでいるような場合は、温熱環境や耐震性能においてどうしても劣ってしまう古い建物では、年々あふれる住まい情報や隣の新築をみるにつけ、より大きく感じるようになるのが、安全と快適。
登録文化財の建物で生まれていても一旦マンション暮らしなどしようものなら、こんな寒い実家に一泊だってごめん、という声が聞こえます。ましてその配偶者やこども達ならなおのこと、信じられない寒さです。
また地震情報のテロップが流れる度に、このうちは大丈夫?と不安がよぎります。大丈夫、200年保っているから・・・、は根拠ゼロの「NGワード」です。
そこで登録文化財の修理には通常の新築住宅と違って50-200年分の修理が襲ってきます。日常茶飯事なのが点検と小修理。次に年に一度ぐらいのあちこち重点修理、そして、数年に一度の中規模修理、それから10-30数年に一度の抜本大修理となります。
現状維持のための修理以外に必要になるのが改修工事。今回の耐震・防寒・設備修理については、「住み方修理」と言われる工事になります。住まい方や住まいに対する考え方、価値観が工事の有無を左右します。代替わりや相続税問題を機に資金に余裕があれば一日も早く住みやすさを入手したいのは当然ですね。
さて、具体的に登録文化財の修理の際にすべきことを考えてみます。・・・続く

杉皮の屋根下地がでてきました。納戸をトイレに改修中の登録文化財の長屋門
登録文化財修理に必要な届出について
ようやくまとまりました。
登録有形文化財(建造物)の手引2(登録後の各種届出)(1.5MB)>>登録有形文化財(建造物)の手引
登録文化財の届出のいろいろ・・・5-10万円以下の罰則有り
- 滅失届・・・減築、構造部材の取替、姿の変容等で建造物が失われた場合→滅失届、現状変更完了報告の届出→文化庁諮問答申→登録抹消
- き損届・・・建造物が相当程度破損又は損傷した場合
- 現状変更届・・・文化財としての価値を有する部分に直接的かつ物理的に変化を加えた場合(登録所見が根拠)よって、通常望見できる外観を損なう範囲が当該外観の 4 分の 1 以下の変更や災害後の応急の措置は届出不要。現状変更しようとする日の 30 日前まで
- 現状変更完了の報告
- 管理責任者専任・解任・変更の届出
- 所有者変更、所有者の氏名、名称、住所変更の届出
- 管理責任者の氏名、名称、住所変更の届出
- 所在の場所変更の届出
- 登録証再交付申請
最近改修を行った例で文化庁へ届出をおこなったものに屋根の葺替えがあります。建設当時は六甲赤瓦、’95震災前はセメント瓦、令和になって断熱・耐震仕様のカラーガルバ葺きに現状変更。↓
屋根の葺替えは案外、現状変更届不要の場合も多い(屋根は適宜葺替えが必要で時代ごとによりいい素材がある=消耗品)
もうひとつは、結果的に「文化庁への届出」は不要と判断されたものの、早合点で着工してしまって後で冷や汗をかいた例です。
外観の変更がない改修工事は大丈夫と高をくくっていたところ、ちょっと待って!と文化財課の声。
外観に変更がないから現状変更の届出が不要という訳ではない。
外観が変わらずとも、躯体や構造に大きく影響が及ぶ場合は、届出が必要となることがありえる。
例えば、内部の間取が大きく変わる、柱や梁といった構造材の多くを新材に取替える場合がそれ。
今後、上記のような改修が見込まれる場合は、事前に必ずご相談ください。
文化財として登録文化財は活用あってこその文化財ですので、外観以外は改修自由にOKとの認識が甘かったのです。逆に言うと内部が全く別物になってしまったものは登録文化財になるのは難しいと勉強したはず。よって文化財性の神髄を見逃した改修になればやはり登録文化失格というわけで注意が必要です。
具体的には、
「間取りの変更」とは、壁を撤去して2間を1間にするとか、畳の間を土間にするといったことを想定している。
室の用途が変わることは、文化財としては特に問題ない。
室内で簡易な間仕切りを付加する程度であれば問題ない。
よってそのような改修の場合、事後の報告も必要なし。
ということです。非常に身に染みるご指摘で、指定文化財でないのでとか、たかが登録文化財、この程度の改修で・・・、との意識では不十分でした。自分を叱責してのご高言拝領でした。
【本の紹介】文化財建造物の保存修理を考える: 木造建築の理念とあり方>>Amazon
2019/4/14公益財団法人 文化財建造物保存技術協会 (編集, 監修)
木造建築は適切な修理が継承されることで、今日まで保存されてきた。国内外の建造物保存修理の歴史や事例、理念、あり方について、技術者・行政担当者・研究者が会して検証したシンポジウムの記録集
隣家の解体で、新たに「望見できる範囲」が増えたときの対応について

町家が建て込む古い町並みでの「あるある」が、これです。ある日突然隣家の解体チラシが入っていたかと思えば、古い家屋の解体速度は異様に速い。今まで正面しか見えていなかった我が家の側面がごっそりあらわになってしまう事態に。
さてこれが登録文化財だった場合、今まで見えなかった、または隣家との隙間はあるが、入れない、メンテできないが獣は入る、勿論雨風をいれるわけにいかない部分として、望見範囲に入っていなかった部分が望見できるようになります。羊羹切りのような断面町屋の出現です。
焼杉板などの外壁の覆いの無い、裏返しのない竹小舞を露出された土壁裏が露出されることになってしまいます。さて、この部分の修理に登録文化財の現状変更手続きが必要になるでしょうか?
京都や奈良の古い集落、街区では、隣家もしくはこちらの町家を建設するときには、軒並を揃えつつ、まったく同じ面・ラインに合わすと始末が悪い(工事できない)ため、少しセットバックしたり、軒の高さを変えたりして、お互いに譲り合ってお互いの外壁の見合い部分をやさしく覆う方法をとるものです。こうして家並みに小さなリズム(高低差や出入り)が出て「甍の波」の美しさが醸成されるのが、日本の町家風景です。
ともあれこうして、町並みに歯抜けが起こるといっぺんに登録建物とはいえ恥ずかしい側面さらけ出すことになり、今まで隣家とかばい合って夜露をしのいできた外壁を守る仕上げが必要になります。
町家が角地などに建ち、正面ともう一面を見せるときには、その側面(横顔)のデザインに心を砕きます。当初からならではの、妻面の意匠として屋根を入母屋にしたり、段違いの棟をこさえたり、窓の意匠に気を使います。が突然見せるはずのなかった側面・横顔をさらすとなると納まりを付けるのに困ります。まず妻側けらばの出が浅いので雨仕舞いに苦慮します。十分下地を作り、防水措置(防水シートや耐水ボード、時には断熱・気密・通気層)をして、建物に似つかわしい化粧として焼杉板や船板と言った新しい壁の文脈を作ることとなります。しかも境界ギリギリに外壁が仕上がるため、今後そう度々メンテのため隣家に入ることも難しくなるため、耐久性も必要です。
もう一つの問題が防火措置。旧来、自然材料で紡いできた伝統構法の家並みに防火地域や22条地域の導入で簡単には自然材料を使うわけにもいきません。地域によって一定の防火・耐火性能を有する仕様規定や認定品で仕上げることが建基法のコンプライアンス問題が生まれてくるのが現代といえます。

