2016年熊本地震で新耐震も倒壊
震度7が2回観測された2016年熊本地震において、旧耐震基準(昭和56年5月以前)の木造建築物の倒壊率は約3割、新耐震基準の木造建築物でさえ倒壊率の1割弱あり、その中でも2000年の法改正以前の金物や偏心率において引けを取る時代の建物が9割であった。日頃、耐震診断業務をしている身にはショックが走った。
新耐震でも危ないのか、と。
新耐震は、旧耐震ではその構造基準で約1.4倍の壁量が確保されているにもかかわらず倒壊するものがあったいっぽうで、住宅性能表示制度【耐震等級3】(倒壊等防止)の住宅は新耐震基準の約1.5倍(旧耐震の2.1倍)の壁量が確保されており、大きな損傷が見られず、大部分が無被害であったという。(→詳しくは国交省発表「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント」)
接合部の仕様を明確化した2000年6月以降に建築された新耐震基準の建物の中で倒壊した原因は、現行規定の仕様となっていない接合部、著しい地盤変状の影響、震源や地盤の特性に起因して局所的に大きな地震動が建築物に作用
したことの三点。劣化や施工不良は防げたもので、非常に痛い原因である。
という事実を元に、新耐震特に2000年までの基準で建てられた建物の耐震診断において注意すべき事を揚げる。
新耐震前期(~2000年)の建物の特徴
- 壁面に構造用合板が適切に使われていない。
- N値計算に基づく柱頭柱脚の補強金物が設置されていない。
- 外壁がラスモル仕上げの場合、下地は木ずりが圧倒的に多い。木ずりモルタルの壁基準耐力は2.2kN/m(壁倍率1.0と壁基準耐力1.96kN/mがほぼ同等)
- 内壁にあえて構造用合板を使うことがない。天井までのPB仕上げ、厚さ3㎜超程度の化粧合板やクロス下地合板を使うことが多い。・・・今で言う耐力壁にカウントできないレベルの壁仕様。
- 筋違補強金物がない
よって外壁ラスモル、内壁石膏ボードでは壁基準耐力は2.2+1.0=3.2kN/mしかないので、石綿スレート葺きの軽い屋根であっても必要耐力を耐震等級3で想定した場合、7割もないことになる。まして評点の劣化低減(~0.7)、偏心率(0.8等)の低減をかけるとさらにその1/2(評点0.35とか)にもなりかねない。
1995年阪神淡路大震災後、進む耐震改修北進法による耐震診断や耐震補強の補助対象は旧耐震に限る場合が多かったが、2025年で震災後30年。新耐震も確実に築後年数が30年増えていることに危機感をもたなければならない。
新耐震の耐震補強方法
ではそうした1981以降、特に2000年までの新耐震前期の建物がリフォームの時期を迎えるとき、耐震補強をどうするか?
- 確認申請図書や住宅金融公庫標準仕様書、工事中の写真や工事契約書(工事明細が添付してある)があれば工事の仕様、耐震に関してどこまで配慮してあるかがわかる。
- 上記を元に、現地調査。小屋裏や床下、スイッチやコンセントプレートを外すと壁の仕様も見ることができる。また金物補強の程度や筋違の有無・仕様が判明する。全域をくまなく非破壊調査で解明することはできなくとも7-8割方は建物の耐震診断の判断材料を得ることができる。
- 以上の既存資料と現地調査を元にまず耐震診断
- 劣化を考え合わせると1.0は超えないことが見込まれるので、耐震改修の計画の前にできたらリフォームしたい箇所をイメージする。
- 台所セットの更新、浴室のユニット化、子供部屋の間仕切り撤去、和室を介護室に、、、といった要望が見込まれたら、そういった箇所を中心に断熱改修と合わせた耐震補強を計画する。構造用合板や接合部金物、しかも床天井を触らない経済的な補強方法も数々考案されているので、それらを駆使して耐震評点をあげる方法を模索することとなる。