日本建築と金物

和風金物のはじまり

日本建築における最初の金物といえば、木造の補強材である釘ではないでしょうか。

日本が誇る木造建築のすぐれたものは釘一本使っていないといわれたりしますが、実際は奈良時代以前の金属の加工技術がなかったころを除き、日本の木造建築は「和釘」に代表される建築補強材なくしては成り立ちません。現存する日本最古の木造建築、法隆寺本堂においても、和釘が重要な構造補強材として登場しており、これが日本建築の金物のはじまりといえます。

そして、このとき同時に垂木の木口など、建物を飾る装飾金物として銅製の透かし彫り金物もまたあらわれています。この場合は、木部の木口を保護する目的から生まれたものが、結果的にはその装飾性がより強調され、装飾金物になったといえます。

つまり、和風金物の起源には補強金物と装飾金物(錺金物)との二面性があり、それらが相まって和風金物を形づくっているといえます。

和風金物 真如堂山門脇扉の栓差し式の施錠装置 笄【こうがい】
真如堂山門脇扉の栓差し式の施錠装置 笄【こうがい】

良質な古建築に使われている金物は、決してこれ見よがしに存在してていないことがわかります。建築との連系がバランス良くなされているのは建物の造営をつかさどった先人の感性のおかげといえるでしょう。うっとりするものがたくさんあります。

みなさんもそんな見方で古建築の名脇役をご覧になってください。

真如堂メモ

京都市左京区にある天台宗の寺院で真正極楽寺【しんしょうごくらくじ】の通称。山号は鈴聲山【れいしょうざん】、本尊は阿弥陀如来、開基は戒算。本堂は享保2年(1717年)の建立で重要文化財。

上の写真は山門扉の閂【かんぬき】(横棒を扉に取り付けたコの字状のものに貫いて扉が開かないようにするしくみ)が抜けないように留めつける「栓」で、髪を掻き揚げて髷【まげ】を作る装飾的な結髪用具である「笄」【こうがい】に似せているところからこう呼ぶ。

真如堂山門

和風金物に関するおすすめの参考文献

●日本の金工と和風金物
古建築の細部意匠/近藤豊著/大河出版1972
古建築装飾文様集成草木編/近藤豊著/光村推古書院1972、同鳥獣編/1973、風月編/1974
文様集成28建築金具/松原康雄編/建築学会1913

●伝統的な金工技術について
「日本の工芸」金工/中野政樹他著/淡交社1978
金工の伝統技法/香取正彦他/理工学社 1986
日本の美2NO.141正倉院の金工/中野政樹編/至文堂1978
錺師の技/INAX/1989
錺師森本安之助//国分綾子 森本錺金具製作所 1970

●日本建築のディテール全般について
祇園祭―鉾立と細部意/近藤 豊/大河出版 1970
町家再生の技と知恵/学芸出版社 2002
数寄屋図解事典/北尾春道 編 彰国社 1974
新訂 日本建築/妻木靖延、渋谷五郎、長尾勝馬原著/学芸出版社2009
図説木造建築事典(基礎編、実用編)/木造建築研究フォラム編/学芸出版社1995

●茶室について
自慢できる茶室をつくるために/根岸照彦/淡交社 1986
寸法錄/廣瀬拙齋/河原書店1933
茶事道具/淡交社1967
茶道の基礎/淡交社1979
御茶室造作図 俣野忠蔵